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エトセトラ

2021.02.21

2月18日、運輸安全委員会は2019年9月5日に発生した京急線神奈川新町駅構内における踏切脱線事故についての調査報告書を公開した1)。私としてもこの事故がどうして起きてしまったのか気になっていたところなので、調査報告書を読んでみよう。

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京急新1000形 1137編成
2013.8.31/京成立石〜青砥

▲踏切事故の当該車両である新1000形1137編成。事故後の復帰はかなわず、2020年3月15日付で編成丸ごと廃車になっている
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京急本線 神奈川新町第1踏切道
2020.8.8/**

▲事故現場となった神奈川新町第1踏切道を神奈川新町駅から見たところ。トラックは写真右手より踏切に進入し、下り通過列車と衝突してしまった

事故のあらまし:9月5日11時40分ごろ、神奈川新町第1踏切道において踏切内で立ち往生していた大型トラックに列車が衝突し、脱線事故が発生した。事故の当該となったのは青砥始発の1088SH快特三崎口行で、編成は新1000形1137編成であった。1137編成は大型トラックに乗り上げる形で3両目までが脱線。この事故によりトラックの運転手が死亡、77名(列車の乗客75名+乗務員2名)が負傷した。

事故後の報道等により、踏切の特殊信号発光機(特発)が列車からきちんと視認できる位置に設置されていたか、運転士は適切にブレーキを扱っていたか、の2点が焦点になっていたように思われるので、ここらへんのことを中心に報告書を読み進めていくことにする。

事故発生当時、何が起きていたか

踏切内で立ち往生した大型トラックが事故のきっかけとなってしまったことは論をまたないところであろう。報告書によれば、京急本線山側の側道を仲木戸方から走ってきた大型トラックは、踏切前の丁字路においていったんは左折を試みるもこれを断念、右折して踏切へ進入することになったという。

とにかく道が狭いので、大型トラックは右折に手間取った。細かい切り返しを繰り返しているうちに踏切は鳴動を開始。上り線を支障した状態で踏切の遮断が完了した。この時点で踏切の障害物検知装置が大型トラックを検知し、特発も動作したものとみられる。なお、現場に居合わせた京急社員2名により踏切の非常ボタンが、1番線に停車していた1056(普通浦賀行)の運転士により駅の非常通報ボタンもそれぞれ扱われている。その後、大型トラックはどういうわけかさらに前進し、下り線も支障してしまった。

他方、1088SHは京急川崎駅を定時で出発し、120km/hのスピードで走ってきていた。大型トラックの立ち往生により神奈川新町第1踏切道の特発が動作しているわけだが、当該列車の運転士への聞き取りによれば、最初に特発の動作を確認した時点では常用ブレーキを操作したとのことである。この時、列車の運転士には大型トラックは見えていない。

列車は減速しながら進むが、神奈川新町駅のホーム上の特発と異常報知装置も動作していたことから非常ブレーキが投入された。さらに、駅ホームに差し掛かったところで列車の進路上を塞ぐ大型トラックが見えたため、警笛を鳴らすとともに防護無線と緊急スイッチが扱われた。しかし、列車な踏切までに減速しきれず、約62km/hで大型トラックに衝突。脱線しながら約67mほど進んで停止した。

特殊信号発光機(特発)は適切な位置に設置されていたか

まず気になるのが、神奈川新町第1号踏切の特殊信号発光機(特発)が適切な位置に設置されていたかどうかだ。同踏切の特発は神奈川新町駅のホーム上に2基、第一場内信号機近傍に1基設置されている。このうち、ポイントとなるのは下り列車が最初に視認する最も品川方のものだが、これについて運輸安全委員会はこの特発が運転士に対して余裕のない位置に設置されていると結論づけた。

運輸安全委員会が調査したところ、当該の特発は踏切の約572m手前で視認可能であったことが明らかになっている。理論上、新1000形で120km/hのトップスピード走行中に踏切の約572m手前で特発の動作を認めた場合、1.8秒以内に非常ブレーキを投入すれば踏切までに停止することが可能である。しかし、運輸安全委員会はそもそも予期しないタイミングで動作するという性質の特発に対して即座に反応することの難しさを指摘。実際に、事故を起こした列車がブレーキ操作を開始したのは特発を視認可能な約572m手前を通過してから4秒後であり、仮にそこから非常ブレーキを扱ったとしても踏切までに停止することはできなかった。

加えて、架線柱等により列車から特発の現示が断続的に遮られる瞬間があったことが判明している。こうしたことが特発の視認そのものを遅らせた可能性も挙げられた。

列車運転士のブレーキ操作は適切であったか

前述のように当該列車の運転士は特発の動作を確認後、まずは常用ブレーキを操作した。最初から非常ブレーキを投入していても事故は防げなかった可能性が高いとはいえ、非常ブレーキならば被害は幾分か軽減できたはずである。運転士のブレーキの取扱いは適切だったのだろうか。

運輸安全委員会は、京急が定めている運転取扱実施基準によって被害が大きくなってしまった可能性を指摘している。同基準では、特発の動作が認められた場合に「速やかに停止するもの」とだけあり、常用ブレーキと非常ブレーキの使い分けについては特に言及していない。すなわち、特発動作時のブレーキ操作は、その時々の状況により運転士の判断に委ねられていた。

なお、私が京急に乗車した限りでは、特発が動作していても非常ブレーキが扱われたという体験はほとんどない。たいていの場合、特発の動作は踏切をギリギリで渡る人に対する反応であり、そうした人が踏切を渡り終えれば特発の現示は消えるためだ。この場合、列車は何ごともなかったかのように踏切を通過していく。また、運転士としては非常ブレーキを扱うことで列車を遅らせたくないという心理もあることだろう。

したがって、ブレーキの使い分けを明文化していない運転取扱実施基準がある以上、最初に扱われたのが常用ブレーキであることは何ら不思議ではない。逆に言えば、残念ながら誰が運転していても事故に発展する可能性があったということでもある。運転士にしてみれば、事故を回避する手段が「特発の動作を架線柱等に惑わされることなく踏切の約572m手前できちんと視認でき、なおかつ1.8秒以内に非常ブレーキが必要と判断して投入する」だけというのは、かなり厳しい条件だったと言わざるを得ない。

この事故に対する京急の再発防止策

この事故を受け、京急では以下の再発防止策を実施した。

  • 運転取扱実施基準を変更
  • 特発の設置ルールを見直し
  • 事故当該の踏切については特発を増設
踏切に対する私たちの心構え

踏切の安全対策を実施するのは鉄道事業者や道路管理者だけではない。踏切を渡るわれわれにも安全に配慮する義務がある。当然のことながら踏切は余裕をもって渡る、自動車の場合は前方のクリアランスを十分に確認するなど。万が一、線路内に取り残されてしまった場合には、遮断竿を破壊してでも脱出する、あるいは躊躇なく非常ボタンを押すなどの度胸を準備しておくことも必要となろう。

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