2021.07.22
さようなら、「ドレミファインバーター」。
7月20日、京急1000形1033編成が更新工事前の運行を終了した。同編成は2100形より採用されたドイツ・シーメンス製のGTO-VVVFインバーターを搭載した最後の編成であった。このVVVFインバーターを搭載した車両は、起動時において音階調の楽しげな音を奏でることから「歌う電車」「ドレミファインバーター」などと通称されていたが、1033編成の更新により京急の「歌う電車」は消滅することとなった。
「ドレミファインバーター」の最後の営業運転となったのは20日の2113Aレ快特京急久里浜行で、回送で久里浜検車区に入庫、そのまま入場となったようである。また、京急ではシーメンス製GTO-VVVFインバーターの終了にあたり、「さよならドレミファインバータ♪」と題したイベントを実施。記念乗車券が発売されたほか、18日には特別貸切イベント列車「ありがとうドレミファインバータ♪」が品川→京急久里浜で運転された。
◆ ◆ ◆
そもそも1000形から聞こえる「ドレミファ」とは何の音かというと、台車に搭載されたモーターの音である。1980年代後半から主流となっているVVVFインバーター制御の電車のモーターは、その制御により独特な磁励音を発する。本来、電車のモーター音なんてものは物好き以外にとってはただの騒音にしかならないが、ドイツの電機メーカーであるシーメンスはこの音が不快にならないようあえて音階調に鳴るようにチューニング。すなわち、あの「ドレミファ」はドイツ人の遊び心が作り出した音だったのである。
京急がシーメンス製VVVFインバーターを採用したのは1998年に登場した2100形から。2100形ではイニシャルコストやメンテナンスの低減、性能の向上を図って外国製品が積極的に導入され、その中で制御装置たるVVVFインバーターも外国製のものが採用された。続く2002年登場の1000形も引き続きシーメンスを採用。2004年度の車両で仕様変更されるまで、2100形と1000形合わせて8両編成15本・4両編成4本が「歌う電車」として製造され、走った。
一般的に国内を走る電車は国産の製品を中心に採用しており、特に電車の心臓部となる制御装置の採用は、鉄道の黎明期は別としても、VVVFインバーター世代の車両ではきわめて珍しい。京急2100形と1000形はその数少ない採用例であった。だからこそ「歌う電車」は京急の個性になり得たわけである。
◆ ◆ ◆
さて、京急の外国製品の積極採用という方針は成功を収めたか・・・というとビミョーなところだ。2006年度導入の1000形から方針が転換され、国産の製品を中心とした「ふつうの車両」に戻った。2100形や1000形に搭載されたシーメンス製VVVFインバーターについても、メンテナンスに手を焼いたのか車体更新などに合わせて国産のものに換装されている。2100形以前に導入された600形や1500形(1700番台)のVVVFインバーターがそのまま残置されていることを考えると、シーメンスはよほど扱いづらかったということだろうか。
こうして「歌う電車」は徐々に数を減らしていき、ついぞ最後となった1033編成も歌い終えることとなったわけだが、「ドレミファ」の音がここまで愛されて人々の印象に残ったことからすれば、必ずしも失敗ではなかったはずである。シーメンスの中の人たちもきっと喜んでいることだろう。
走行音
京急1000形デハ1040 八広→京成曳舟
京急1000形デハ1040 大門→三田
- 京急
- 走行音
関連記事
京急電鉄 シーメンス製VVVFインバーターの終焉
一時代の終焉。11月11日、京急1000形1057編成が全般検査ならびに機器更新などのため久里浜工場に入場した。同編成は現在国産メーカーへの換装が進んでいるドイツ・シーメンス製のVVVF...
京急線・都営浅草線・京成線・北総線「相互直通運転30周年記念」ヘッドマーク
祝・相互直通運転30周年。都営浅草線を介して直通運転を行う東京都交通局と京成電鉄、京急電鉄、北総鉄道では、2021年3月31日に相互直通運転開始から30周年を迎えることを記念してヘッドマーク電車...
京急1000形1890番台 登場
5月6日、話題の新車、京急1000形1890番台が営業運転を開始した。遅ればせながら実車の様子を見に行ってきたので、レポートしよう。さて、1000形1890番台については最初にプレスリリースが...
京急新1000形1065編成 東京都所属になる??
京急新1000形1065編成が都営車になる??? 9月が始まって早10日、季節はまもなく夏から秋に移り変わろうとしている。今年の夏ほどイレギュラーな夏はなかった。例年通りのうだるような暑さとは...
京急新1000形SiC-VVVFインバーター車 直通運用へ
マイナーチェンジ仕様の京急新1000形、都営浅草線や京成線への直通運転を開始。5月16日、73H運行に新1000形1225編成が充当した。2016年度より導入されているマイナーチェンジ仕様の...
最新記事
四直珍列車研究 132 - 平日 2300
押上線の6両編成、しれっと復活してしれっと消える。平日2300レは、かつて運転されていた普通押上行である。2022年2月ダイヤ改正で設定された、押上線を走る唯一の6両編成の列車であった。押上線の...
国鉄型車両を訪ねて 26 - JR東日本201系 通勤快速成東・勝浦行
さようなら、「なるかつ」。「へー、京葉線なのに勝浦まで行くヤツがあるんだ。」ある時に時刻表の京葉線のページを眺めていて「発見」した勝浦という文字は、私の中で驚きとともにやけに魅力的に映った...
北総線 タブレット端末を活用した自動放送を導入
北総線で自動放送始まる。北総鉄道では、2月16日より列車内における自動放送の使用を開始した。対象となるのは、他社局線からの直通車両を含む北総線の全ての列車となっている。京成線と京急線で実施して...
新潟交通新潟駅万代口バスターミナル 最後の勇姿
本州における日本海側で最大の都市、新潟。新潟で見るべきもの言えば、重要文化財に指定されている萬代橋でも越後一宮・彌彦神社でもなく、新潟駅万代口のバスターミナルである。2月末に新潟に行く機会が...
京成AE形 「スカイライナー運行開始50周年記念」ヘッドマーク
祝、運行開始50周年。京成電鉄では、12月末よりAE形において「スカイライナー運行開始50周年記念」ヘッドマークの掲出を行っている。これは2023年12月30日にスカイライナーが運行を開始して...