KSWeb

鉄道やバスなど、公共交通に関するディープな話題をお届けしています。

Article

記事

2023.10.04

京急線、約28年ぶりに運賃改定を実施。

D41446.jpg

京急1000形 1049編成
2023.5.31/生 麦

▲10月1日に運賃改定を実施した京急線。2022年11月には約23年ぶりとなる大幅ダイヤ改正が実施され、ダイヤも運賃も大きく変わることとなった
Z01002.jpg

北総線 運賃改定

▲普通運賃(きっぷ利用)の改定前と改定後の比較。40kmを境に値上げと値下げが逆転し、長距離の利用に対してきわめて有利に設定されているのが今回の運賃改定の面白いところ

10月1日、京急電鉄は京急全線において運賃改訂を実施した1)。消費税率の引き上げに伴う運賃値上げを除けば約28年ぶりの運賃改定となっている。どういった内容なのか見てみよう。

「横浜対策」が含まれた新運賃

新しい運賃は従来の運賃に対して全体で10.8%と値上げとなっており、ここのところ多くの鉄道事業者で見られる、新型コロナウイルス感染症の影響による新たな生活様式の浸透やそれに伴う輸送サービスの持続可能性の実現を背景とした運賃改訂を京急も行った格好である。

ところが、今回の京急の運賃改定においてはすべての区間において一律に値上げを行うのではなく、区間によっては逆に値下げとなるところが発生しているのが面白いところ。新旧運賃の比較は上に掲載した図の通りだが、30kmを過ぎたあたりから急激に跳ね上がっていく従来の運賃に対し、新運賃ではその上昇がかなり抑えられている。40km以上の乗車では運賃はむしろ値下がっており、特に75km以上の乗車では210円も安くなっている。

こうした新運賃の意図は何だろうか。京急は新たな需要創出と沿線活性化を目指すとしているが、それはズバリ「横浜対策」と言える。京急が営業するにあたり無視できないのはJR線の存在。特に、品川〜横浜では京急線とJR線とが近接して走り、日々デッドヒートが繰り広げられている。一方、都心に向かう利用者は京急の都心側ターミナルである品川だけでなく途中駅の横浜でも他社線への乗り換えが可能となっており、京急にとっては痛恨の「逸走」が発生している状況である。これをなんとかしたいという思いが、新しい運賃から透けて見えてくる。

以下、他社線への乗り換えを含んだ新旧運賃の比較を見てみよう。まずは京急線から東京まで利用する場合における、品川で乗り換えと横浜で乗り換えの比較である。※表は横方向にスクロール可能

東京〜 旧運賃 品川経由 / 横浜経由 新運賃 品川経由 / 横浜経由
金沢文庫 680 / 780 690 / 810
横須賀中央 830 / 860 800 / 900
京急久里浜 980 / 920 890 / 950
三崎口 1,130 / 1,070 920 / 1,060

つづいて、新宿発着の新旧運賃比較。横浜経由は新宿〜渋谷をJR線、渋谷〜横浜を東京東横線を利用した場合の運賃。※表は横方向にスクロール可能

新宿〜 旧運賃 品川経由 / 横浜経由 新運賃 品川経由 / 横浜経由
金沢文庫 710 / 770 720 / 800
横須賀中央 860 / 850 830 / 890
京急久里浜 1,010 / 910 920 / 940
三崎口 1,160 / 1,060 950 / 1,050

従来の運賃では横浜経由の方が安くなる区間が存在するのに対して、新運賃ではいずれの場合においても品川経由の方が安くなっているのがおわかりいただけよう。実に巧妙に設定された運賃だ。当駅始発の列車が利用可能な品川経由がさらに安いとなれば、お客さまに品川経由を選択させる動機付けとして十分である。お客さまにより長い区間を乗ってもらえば、その中でウィング号(平日)やウィング・シート(土休日)といったオプションの座席指定サービスを利用していただけるかもしれないというメリットもある。

また、今では誰しもが使うスマートホンの乗換案内では、最速ルートのほかに最安ルートでの検索ができるのは当たり前である。それだけに、ある区間で自社線が最安ルートを構成する経路に含まれているか否かはきわめて重要となる。京急線を利用するルートが乗換案内の検索結果に出てくれば、それだけ京急線を利用してもらえる確率も高くなるというわけだ。

小児均一運賃の導入

そして、今回の運賃改定の第2のポイントは、ICカード乗車券利用時の小児運賃を全線で均一75円としたこと2)。同様の施策は小田急電鉄や神奈川中央交通で実施されている3)が、これを京急でも取り入れた格好である。

空港連絡特殊割引の廃止

羽田空港第1・第2ターミナル駅または羽田空港第3ターミナル駅から都営線および京成線各駅相互間の利用に適用していた「空港連絡特殊割引」は廃止となった。新型コロナウイルス感染症の影響による行動変容や空港線加算運賃の引き下げ(2019年10月実施、170円→50円)などにより、一定の役割を終えたためと説明している。

◆ ◆ ◆

以上、今回の京急の運賃改定は、単に安全安心な輸送サービスの持続可能性を実現するためのものではなく、よりたくさん自社線を利用してもらうための再構築を行ったものと言える。それは、もしかしたら自社線に平行して走る強力なライバルが存在する京急ならではの改定内容なのかもしれない。

  • 京急
  • タグはありません

関連記事

京急線 普通列車の走り方の変化

京急線の普通列車の走り方を見る。京急線で2022年11月26日に実施されたダイヤ改正。日中時間帯の運行パターンの刷新は、京急自ら「23年ぶりの大幅ダイヤ改正」と表現するほど大きなものであった...

京急線 普通列車の走り方の変化
京急線 2022年11月の大幅ダイヤ改正を見る

京急線、約23年ぶりの大幅ダイヤ改正。京急線で2022年11月26日に実施されたダイヤ改正は、京急自ら「23年ぶりの大幅ダイヤ改正」と表現するほど大きなものであった。その中でもとりわけ大きな内容...

京急線 2022年11月の大幅ダイヤ改正を見る
京急電鉄「2022年度 鉄道事業設備投資計画」を読む

5月11日、京急電鉄は2022年度の鉄道事業設備投資計画を発表した。これを読んで、同社の今後の動きを探ってみよう。まず車両について見てみよう。最も気になる車両の新造については、プレスリリース内を...

京急電鉄「2022年度 鉄道事業設備投資計画」を読む
京急久里浜線 平日日中時間帯の減便を実施

京急電鉄では、10月18日にダイヤ修正を実施した。ダイヤ修正は平日のみ実施され、日中時間帯の久里浜線(京急久里浜〜三崎口間)を減便、20分間隔での運転とするためのものとなっている。久里浜線で...

京急久里浜線 平日日中時間帯の減便を実施
京急線 品川駅1番線の整列乗車

京急線品川駅の整列乗車、難しすぎ・・・? 日本人は並ぶのが好きと言われている。好きと言われても嫌いかもしれないけど、美味しいラーメンを食べるのにやっぱり並んでしまうのだから仕方がない。鉄道において...

京急線 品川駅1番線の整列乗車

最新記事

最新記事

四直珍列車研究 134 - 平日 1681K

京成車の特急泉岳寺行が登場。平日1681Kレは、京成車で運転される特急泉岳寺行である。2023年11月ダイヤ改正で登場した列車となっている。京成車の泉岳寺行は都営浅草線西馬込始発のものは数多く...

四直珍列車研究 134 - 平日 1681K
京急1000形 「京急夏詣号」運転(2024年)

空とあなたと夏詣。京急電鉄では、6月末より「京急夏詣キャンペーン2024」の実施に合わせて、「京急夏詣号」の運転を行っている。「夏詣」キャンペーンは同社が2019年度より毎年実施しているもので...

京急1000形 「京急夏詣号」運転(2024年)
都営浅草線 自動放送どうするの問題を考える

都営浅草線の自動放送どうするの問題を考える。列車内における案内として重要なアナウンス。アナウンスでは列車の種別行先や次駅の案内が行われるが、昨今では自動放送が主流となっており、車掌が自らの肉声で...

都営浅草線 自動放送どうするの問題を考える
船橋新京成バス2741号車 「ふなっしー号」

「ふなっしー」なバスが走る。船橋新京成バス2741号車が特別仕様「ふなっしー号」として走ってる。「ふなっしー」といえば千葉県船橋市を中心に暴れている同市で人気の非公認キャラクターだが、2023年...

船橋新京成バス2741号車 「ふなっしー号」
北総車の京急線内特急運転が復活

約19年ぶりに復活した北総車の京急線内特急運転を見る。京急線に大きな変化をもたらした2022年11月ダイヤ改正。京急自ら「23年ぶりの大改正」としたこのダイヤ改正では、特に日中時間帯の運行...

北総車の京急線内特急運転が復活