2017.09.09
アムステルダム駆け足訪問記の第3回。アムステルダム中央駅から市内を散策し、ライツェ通りという通りに行き着いた。この通りはトランジットモールになっており、その様子を少しばかり観察してみた。
国土交通省によれば、トランジットモールとは、都心部において自動車の通行を制限して歩行者と公共交通機関による空間を創出し、歩行者の安全性や都心商業地の魅力向上などを図る歩行者空間のことをいう。日本においては、姫路駅北口の駅前広場ならびに大手前通りが再開発に合わせてバスとタクシーのみ通行可のトランジットモールとなったほか、一部の自治体のコミュニティバスが歩行者空間になっている商店街に乗入れるといった形態のトランジットモールが見られるが、これらはいずれもバスである。路面電車によるトランジットモールは、福井や岐阜でトランジットモールの実現に向けた社会実験がなされたものの、本格的な運用には至っていない。
ライツェ通りは、アムステルダム中央駅から南西方向に約1.5kmに位置する長さ約500mの商店街である。前述のようにトランジットモールとなっており、一般の車両の通行が規制された、歩行者と路面電車だけの空間になっている。幅員約10mほどの通りの真ん中に軌道が敷設されており、ここをアムステルダム交通局の路面電車が行き交っている。
ここの区間を走る路面電車は、いずれもアムステルダム中央駅を起点として走る1系統と2系統、5系統の3つ。1系統は6分間隔、2系統と5系統はそれぞれ7〜8分間隔での運行になっているので、これらの系統が輻輳しているライツェ通りはかなりの頻度で電車が走ってくる。そんな状態でも軌道敷には特にこれといった柵などは設けられておらず、なんなら歩行者が自由に歩ける空間の一部にすらなっている。この区間の運転にあたり、電車は歩行者に対してフートゴング1)で注意を促しながら徐行で通過するという原始的な方法が採られているが、電車が無防備な歩行者の至近を通過していく様子はなかなかスリリング。よく成り立っているものだと思う。
路面電車と歩行者が共存する面白い空間になっているとは感じるものの、日本でこれと同じことをするのは、事故時における責任などを考えると難しいのではないかと思う。乗務員にしたって、できることならこんな危なっかしい区間の運転は避けたいはずである。他方、アムステルダム中央駅前の電停においても、電車が駅前広場の雑踏をかきわけながら発車していくのを見るにつけ、基本的に電車と人の距離感がとても近いのだと思う。この距離感がライツェ通りのようなトランジットモールを成り立たせているのかもしれない。
一見すると単線に見える軌道だが、よく見ると複線のレールがわずかに交わっておらず、ガントレットになっている。ガントレットについてはリスボン市電の記事でも触れたが、ライツェ通りのガントレットも単純に分岐器の使用を避けるためのものとみられる。ライツェ通りの約500mにわたる区間が全てガントレットによる実質的な単線区間になっているかというと、そうではない。運河の上に幅員に余裕のある橋がいくつか架かっており、そこの部分だけ通常の複線軌道になっている。電停にもなっている複線部分で電車の行き違いを行ないながら、路面電車はライツェ通りの区間を進んでいく。
前述のようにこの区間は3つの系統が重複している区間なので、電車は前からも後からもどんどんやってくる。ところがこれがなんとも不思議で、ガントレットの実質単線区間には特にこれといった信号機は設置されておらず、乗務員が無線などでやりとりしている様子もない。まさか運転士どうしがアイコンタクトをしているわけではあるまいし、それでいてガントレット区間で電車どうしがお見合いすることなくスムーズな運行ができているのは少しばかり謎であった。この区間の運行について、なにか知っている人がいたら教えて下され・・・。
こうして急ぎ足ながらアムステルダムを堪能した後、国立美術館の前から197番の空港バスに乗ってスキポール空港へと帰還。日本に帰ったのであった。
(完)
- 1)カンカンと鳴る、鐘のような音の警笛のこと。
関連記事
オランダ 少しだけアムステルダム 2 - アムステルダム市電
ってことで、アムステルダム駆け足訪問記の第2回。アムステルダム市電を少しだけ。アムステルダムも路面電車の走る街である。路線網は特にアムステルダム中央駅を中心とした旧市街を中心に展開しており...
オランダ 少しだけアムステルダム 1 - アムステルダム中央駅
さて、ポルトガル旅行の様子をだらだらと書き綴ってきたが、これには少しばかりの続きがござる。リスボンへの飛行機がオランダのアムステルダムで乗換えだったので、ついでにアムステルダムにも行ってきました...
ポルトガル周遊の記 番外編 - リスボン市電のすごい配線
狭い街区の中をちょこまかと走るリスボン市電はその配線もすごい! ってことで、Twitterに掲載したらなかなか好評だったので、こちらにも改めて掲載したく思う。ちょっとだけ強引に敷かれたリスボン...
ポルトガル周遊の記 17 - リスボン市電28系統、狭隘路を走る
ポルトガルの首都、リスボンを走るリスボン市電。最後に、28系統の狭隘区間を見に行ってみた。リスボンを東西に走る28系統はところどころに狭い路地を走る区間が存在している。特に狭いのがアルファマ地区...
ポルトガル周遊の記 16 - リスボン市電あれこれ(路線篇)
前回の記事につづいてリスボン市電をば。今回は路線についてご紹介しよう。2017年現在、リスボンで運行されている路面電車は12、15、18、25、28の5系統。系統番号の数字が飛び飛びになって...
最新記事
京成線 2024年11月23日ダイヤ修正
京成電鉄では、11月23日にダイヤ修正を行う。今回のダイヤ修正について、プレスリリースや15日発売の京成時刻表Vol.33などで明らかになっている情報を基に、その内容を見てみよう。本稿では...
四直珍列車研究 134 - 平日 1681K
京成車の特急泉岳寺行が登場。平日1681Kレは、京成車で運転される特急泉岳寺行である。2023年11月ダイヤ改正で登場した列車となっている。京成車の泉岳寺行は都営浅草線西馬込始発のものは数多く...
京急1000形 「京急夏詣号」運転(2024年)
空とあなたと夏詣。京急電鉄では、6月末より「京急夏詣キャンペーン2024」の実施に合わせて、「京急夏詣号」の運転を行っている。「夏詣」キャンペーンは同社が2019年度より毎年実施しているもので...
都営浅草線 自動放送どうするの問題を考える
都営浅草線の自動放送どうするの問題を考える。列車内における案内として重要なアナウンス。アナウンスでは列車の種別行先や次駅の案内が行われるが、昨今では自動放送が主流となっており、車掌が自らの肉声で...
船橋新京成バス2741号車 「ふなっしー号」
「ふなっしー」なバスが走る。船橋新京成バス2741号車が特別仕様「ふなっしー号」として走ってる。「ふなっしー」といえば千葉県船橋市を中心に暴れている同市で人気の非公認キャラクターだが、2023年...