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2017.05.02

ポルトガルの首都、リスボンを走るリスボン市電。最後に、28系統の狭隘区間を見に行ってみた。

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リスボン市電 564
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▲アルファマ地区の狭隘区間を行く市電28系統。軌道が「ガントレット」と呼ばれる特殊な形状になっているところにも注目

リスボンを東西に走る28系統はところどころに狭い路地を走る区間が存在している。特に狭いのがアルファマ地区からグラサ地区にかけての区間。小型であるはずの車両ですらいっぱいいっぱいの道幅の通りを抜けていく。リスボン市電の車両が小さいのは、この区間を通り抜けるための大きさだったということがわかる。実際に電車が走って行くところを見たけれど、にわかには信じられない光景・・・。やはり世の中は広し、こんな強烈な区間を行く路面電車があったとは。

通り自体はグラサからアルファマ方向への一方通行で、路面電車のみが逆走を許可されているといった形態になっているようだった。軌道は単線。もちろん一方通行で電車どうし(あるいは電車と一般車両)がお見合いすることがないように、狭隘区間の入口には信号機が設置してあって、電車は交互通行でこの区間を抜けていく。狭隘区間は小半径のカーブも多く、電車は車輪から音をキーキー言わせながら走る。電車の軌道に隣接するように迷路のようなアルファマ地区が広がっているが、この地区を散策していると時おり車輪の甲高い音が聞こえてくる。

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リスボン市電 581
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▲ここらへんが28系統の最狭区間(だと思う)。裏道のような通りを路面電車が抜けていくが、よくもまあこんなところに線路を敷いたものである・・・
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リスボン市電 車内からの風景
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▲上の写真の最狭区間を車内から見た図。人が歩いてきただけでも電車は通れなくなるので、路面電車は慎重に注意深く進んでいく

この区間が開通したのは1930年代ということだが、よくもまあこんな狭いところに線路を敷こうと思ったものである。こんな区間、危なくて真っ先に廃止になりそうなものだが、実はこの狭隘区間こそが28系統が廃止から免れた要因。逆に道が狭すぎて路線バスに転換しようにもできなかったというわけで、ある意味ではリスボン市電を全廃から救った区間でもあるのだ。

◆ ◆ ◆

​しかしこのリスボン市電の28系統に乗っていると、モータリゼーションの中で路面電車がいかに苦境に立たされているかというのを実感する。28系統はおおむね全線で8〜10分間隔での運行となっているが、ある電停で電車を待っていると、20分も30分も電車が来ないことがあったかと思えば突然3台続けてやってくるなんてこともあり、時刻表通りの運行とは程遠い状態であった。特に28系統は一般の道路交通とともに走る併用軌道の区間が長く、さらに上でご紹介したように交互通行による単線区間はさらなる遅延を呼び込むまさしくボトルネックになっている1)。これには観光客の私ですら多少のストレスを感じたのだから、普段使いとしての路面電車だとしたらそれはもう大変なことは想像に難くない。リスボン市電が5つの系統を残して路線バスへ移行したのもなんとなく納得がいってしまうところ。いかに劣悪な環境の中を路面電車が走っていたかというのを推して知るべしである。

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リスボン市電 564
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▲連なって走る市電28系統。1台目の電車が少なくとも10分近く遅れていることを意味する

​とはいえ、現在残っている5つの系統、特に本稿でご紹介した28系統は、繰り返しになるがリスボンの象徴とも言える存在であり、リスボンの宝である。これらの素晴らしい路面電車をこれからも末永く走らせていただくことを願うばかり。私もまた機会があればこの28系統に乗りにリスボンを再訪してやるぞと誓って、ポルトガルを後にしたのであった。

(完)

  • 1)無線でのやりとりがあるものの基本的には西行きと東行きを交互に通過させているようで、交互通行区間の入口で対向電車が来るまで十数分も待たされるといったことも発生していた。

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