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京成成田スカイアクセス線 祝・開業15周年と将来展望 その2

2025.08.01

成田スカイアクセス線、祝・開業15周年。

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京成AE形 AE1編成
2017.5.26/小室〜千葉ニュータウン中央

▲成田スカイアクセス線の開業とともにデビューしたAE形。2030年代には置き換えの時期を迎える

7月17日、京成成田スカイアクセス線は開業から15周年を迎えた。「押上〜成田空港間有料特急」、「次期スカイライナー車両」、「成田スカイアクセス線完全複線化」の3つのキーワードを軸に、京成の中期経営計画「D2プラン」など現在までに出てきている情報を整理しながら同線の将来を展望してみよう。その1はこちら

次期スカイライナー車両

現在のAE形の後継となる新しいスカイライナー車両の話題もちらほらと出てき始めている。現行のスカイライナー車両であるAE形は2010年7月の成田スカイアクセス線開業とともにデビューした車両だが、初代AE形とAE100形がそれぞれ20数年で第一線を退いたことを踏まえると、現行AE形も2030年代には置換えの時期を迎えることになる。

「D2プラン」によれば、次期スカイライナー車両の整備については検討段階であるとのこと。その際、長編成化を含めた輸送力増強が視野に入ってることが明記された。現在のところ8両編成で運転されているスカイライナー車両の9両編成化あるいは10両編成化は、後継車両に託される。

他方、列車の長編成化は単に車両を増やせばいいというわけではなく、配線や信号機の位置、車庫の容量などさまざまな設備もそれに対応したものとすることが必要になる。京成上野駅や成田スカイアクセス線、現在工場の建替工事が進んでいる宗吾車両基地など一部の設備は長編成化に対応済みあるいは将来的に対応する見込みが立っているが、1979年にようやく8両編成の運転が始まった京成本線は手狭な箇所が多い。現在AE形が入線する全ての線区を9両編成〜10両編成対応にしようと思うと、かなり大きな投資が必要となる。

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宗吾車両基地 新工場イメージ

▲現在工事が進められている宗吾車両基地新工場棟のイメージ図。将来的なスカイライナー車両の長編成化にも対応した設備になるものと思われる(画像は京成公式HPより)

そこで考えられるのが、スカイライナー車両(現在はAE形)で運転している京成本線経由のモーニングライナー・イブニングライナーを、押上線直通有料特急用の車両の担当に置き換える可能性。スカイライナー車両をモーニングライナー・イブニングライナーの任から外すことができれば、その走行範囲は京成上野〜京成高砂〜(成田スカイアクセス線)〜成田空港〜宗吾参道に絞られ、長編成化対応はこの区間だけを実施すればよいということになる。また、スカイライナー車両はスカイライナーに専念することができ、この点においても輸送力の増強が図られる。

もちろんこれは私の単なる予想にすぎないが、押上線直通有料特急の話と次期スカイライナー車両の話はそれぞれ独立したものではなく、京成全体として成田空港輸送をどうするかという点において根底では繋がっている気がするのである。

成田スカイアクセス線完全複線化

そして、やはり成田スカイアクセス線における輸送力増強の大本命は、同線の完全複線化であろう。成田空港輸送の需要の増加に対し、押上線直通有料特急とスカイライナーの長編成化で2040年代前半くらいまでは凌げるかもしれないが、それ以降、さらなる輸送力が必要となったときに、完全複線化は必要不可欠なものとなる。

前回の記事で記したように、成田スカイアクセス線はスカイライナーとアクセス特急がそれぞれ毎時3本運転される計画の下でつくられたものである。現在においても青砥と新鎌ヶ谷に停車するタイプのスカイライナーが根古屋信号所での列車交換のため所要時間の増大を招いているなど、単線区間は成田スカイアクセス線における大きなネックとなっている。また、空港第2ビル〜成田空港についても京成本線との重複区間であるにもかかわらず単線なのはきわめて頼りないし、終着の成田空港駅では京成本線用ホームと成田スカイアクセス線用ホームが縦列に配置されていることから列車の発着順に制約が生じている。

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京成AE形 AE5編成
2020.9.22/成田湯川

▲成田湯川を通過するスカイライナー。高速進行現示に従って在来線では最速となる160km/h運転を行うが、成田湯川から先は単線区間となっている

2024年7月、有識者や国県市町で構成される『新しい成田空港』構想検討会は、旅客ターミナルの再構築や空港アクセス改善などの成田空港の将来増に関して、「『新しい成田空港』構想 とりまとめ2.0」を発表した1)。この中において、鉄道アクセスについては、鉄道を利用する空港利用者の増加が今後も見込まれることから、鉄道アクセスの輸送力と速達性、利便性を向上するために空港付近の単線区間の解消(複線化)が必要であると結論付けている。

また、空港旅客ターミナルの再編(ワンターミナル化)に合わせて、新駅の整備を行うとしている。新たな旅客ターミナルは現在の第2ターミナルの南側に整備される予定で、空港第2ビル〜成田空港は新ターミナルに向かう新線に移行、将来的に空港第2ビル駅と現在の成田空港駅は廃止される。新駅は新ターミナルの北側半分が供用開始となる2030年代中ごろまでに開業予定。空港第2ビル〜成田空港が複線化されるなら、このタイミングだろう。

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成田空港 旅客ターミナル再編イメージ

▲『新しい成田空港構想』における旅客ターミナル再編のイメージ。図中の赤線が鉄道(京成およびJR)で、新ターミナルの整備に合わせて駅の位置も変更される

成田湯川〜空港第2ビルの複線化については、成田空港鉄道アクセス改善に向けた有識者検討会が2022年7月に複線化に必要な費用の試算を公表している2)。京成のみ複線化した場合には700〜1100億円、土屋付近から並走するJRも合わせて複線化した場合には900〜1400億円かかるとのこと。

このほか、前述の『新しい成田空港』構想検討会は、すでに過密状態にある都心側施設の処理能力向上にも言及している。京成としても各線が分岐するだけでなく車庫もある京成高砂付近などは輸送におけるボトルネックと認識していて、輸送力増強に向けて施設の改良が必要であるとしている。現在、京成高砂付近は車庫の移転を含めた連続立体交差化事業の準備が行われている段階だが、高架化に合わせて同駅周辺をスカイライナーの運行に最適化された施設にするということもあろう。

◆ ◆ ◆

以上、成田スカイアクセス線の将来を展望してみた。今後の動きを簡単にまとめると、

  • 押上線直通有料特急運行開始(2028年度)※この時点で成田スカイアクセス線のキャパが限界に達する
  • スカイライナーの長編成化(2030年代)※AE形の置き換えをしながら
  • 成田空港駅の移転、空港第2ビル〜成田空港複線化?(2030年代)
  • 空港第2ビル駅廃止(2030年代後半?)
  • 成田スカイアクセス線完全複線化と列車増発(2040年代?)

という感じになるだろうか。

日本では少子高齢化の下、2010年代より人口減少の時代に突入しているが、その中にあっても輸送量の伸びが期待できるのは京成の大きな強みである。今後、果たして成田スカイアクセス線はどのような変化を見せてくれるだろうか。

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