2018.08.05
四直における日常の一風景として、京急線内を快特として走る北総車を取り上げてみよう。
様々な列車が行き交う都営浅草線を中心とした直通系統、四直。この中で、北総線方面からやってくる列車は主として羽田空港を発着しており、京急側では都心〜品川〜羽田空港のアクセスとして重要な役割を担っている。印旛沼のほとりに車庫を構える田舎の電車が東京の空の玄関である羽田空港への足になっているというのは直通運転の面白いところだが、2012年10月ダイヤ改正から日中時間帯の列車が京急線内でエアポート急行から快特に格上げされており、北総車の快特が当たり前のように走るようになっている。
北総車の京急線内快特は現行のものを含めて3回設定されている。これらを簡単に振り返ってみよう。
1999年に初登場した北総車の快特1)
北総車の快特の初登場は1999年1月ダイヤ修正における、日中時間帯の羽田空港始発北総線方面行。京急蒲田付近の単線区間のやりくりから、80分に1本の上り列車のみが品川まで快特として走るという、やや変則的なものであった。
当時、日中時間帯の北総線系統列車は基本的に京急線内を特急として走っていたが、このうち80分に1本の列車だけ京急蒲田付近の単線区間でエアポート快特とバッティングしてしまう。1998年11月ダイヤ改正の時点ではこの80分に1本の列車を京急川崎発着として回避していたが、翌1月のダイヤ修正でこれらを羽田空港行発着に変更するにあたり、上り列車を快特として運転することにし、京急蒲田付近の単線区間をうまいこと通過させていたのだった。
あまり綺麗なダイヤと言えるものではなかったため、同年7月に実施されたダイヤ大改正で早々に消滅。ハナから短命なものになるとわかっていたためか北総車では快特の種別幕が用意されず、この半年間の北総車の快特は種別幕を空白にして走るというこれもまた珍妙なものであった。とは言え、京成車の快特が走り出すのは2002年10月ダイヤ改正のことなので、定期列車としての快特デビューは京成車より北総車のほうが早かった2)のである。
2004年に北総車の快特が再登場
北総車の快特の2度目の設定は2004年10月ダイヤ改正。土休日の夜間に羽田空港始発の上り列車の一部が快特に格上げされることになり、この中に北総車の列車が含まれていたことから、北総車の京急線内快特が再登場することになった。この時はダイヤ改正に先立って北総車に快特幕が整備され、北総車もしっかりと快特を表示して走るようになった。
とは言え、せっかくの北総車の快特も22時台の2本のみで、あまり目立つものではなかった。2006年12月ダイヤ改正で消滅。これも結果的には短命なものになった。
3度目の正直。2012年に再々登場した北総車の快特
そして3度目の設定となるのが2012年10月、京急蒲田付近の高架化完成に伴うダイヤ改正で登場した現行のものである。横浜方面エアポート急行の毎時6本化に合わせるような格好で、それまでエアポート急行として運転されていた北総線系統の日中時間帯の列車を全て快特に格上げ。これにより、再び北総車の快特が走るようになった。なにより、今回は1999年の80分に1本のみというわけのわからないものではなく、羽田空港アクセスの広告が謳っていたどんどん来る来るを担う運行系統としての設定。3度目の正直と言わんばかりに、いよいよ北総車の快特が当たり前のように見られる時代が来てしまったのである。
北総車の中には7260形や9000形といった四直の中でも最古参級が混ざっており、これらの車両が日常的に京急の最上位種別である快特で走るようになったのは、趣味的にはたいへん愉快なことであった。反面、運転する側にしてみたら大変だっただろうと思う。北総車の快特の最高速度は110km/hとされており、ダイヤとしてもその前提でスジが引かれているが、車両の性能によりMAX105km/hにおさえられていた7260形や9000形にとってはかなりキツいスジとなっていたはずである。実際、これらの車両の列車だけ遅れてくるなんてのはザラであった。タダでさえ列車が過密な品川〜羽田空港間で、ここの場所なら対向列車に被られないだろうと予測してカメラを構えてみても、いかんせん遅れて走ってくるのでうげげげ対向列車にモロ被り・・・という撮影者泣かせの場面を何度か作ってくれた。
◆ ◆ ◆
余談ながら、現行ダイヤにおいて都営浅草線に直通する運行系統の中で最もタイトな走りを要求されるのが、実はこの北総線系統の列車なのではなかろうかと思う。一言で言えば、時間的余裕のなさ。主要駅であり乗降も多くある高砂や押上、品川でも停車時分はそれぞれ30秒しかとられていない。羽田空港国内線ターミナルにおける折返しに至っては、到着してから反対方向に発車するまで2分55秒という鬼畜っぷりだ。
余裕のないダイヤは遅延を引きずりやすい。 羽田空港行の列車が何らかの原因で遅れた場合、折返し北総線方面行の列車は始発の羽田空港国内線ターミナルの時点から遅れてしまう可能性がある。加えて、各駅の停車時分も少ないことから、それを利用して遅延を回復していくのも難しい。北総線→羽田空港→北総線という行程の中のどこか1箇所で遅延が発生した場合、その遅延は復路の北総線内までズルズルと持ち込んでしまう危険性があるということである。
とは言っても大変なのは京急線側、列車本数の少ない北総線内に入れば大丈夫・・・と油断することなかれ(?) 最後にして最大の難関は下りの新鎌ヶ谷である。ここで北総線の列車はスカイライナーの待避を行なうが、列車が新鎌ヶ谷に到着してからスカイライナーが通過するまでの時間はわずか70秒! こんなもん、絶対に遅れてくんなと言っているようなものである。
成田スカイアクセス線・北総線においては天上天下スカイライナー絶対主義であり、後ろから猛烈な勢いで追いかけてくるスカイライナーに迷惑をかけないためにも、なんとしてでも復路の新鎌ヶ谷まで定時でたどり着かなければならない4)。下りスカイライナーを遅れさせてしまった場合、 成田湯川から先の単線区間の関係で上りスカイライナーにも影響を与えてしまう3)。そしてそれは上りの北総線列車にも波及するという地獄ループ・・・。すなわち、北総線系統の列車はほぼ全ての行程でわずかな遅延も許されず、とにかく頑張って走るしかないのである。
8/8多少の訂正と加筆をしました。
- 1)当時は「快速特急」と称した。
- 2)ただし京成車は臨時列車として京急線内を快特として走った実績がある。「成田山号」とかあのへん。
- 3)日中時間帯のスカイライナーは空港第2ビルで行き違いを行なうため。
- 4)このため、スカイライナーの待避駅が新鎌ヶ谷から東松戸に変更されることがしばしばある。この場合、東松戸でスカイライナーを待避するアクセス特急も待避駅が高砂になるなど遅延時の対応がある程度パターン化されている。
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