KSWeb

鉄道やバスなど、公共交通に関するディープな話題をお届けしています。

Article

記事

2021.07.22

さようなら、「ドレミファインバーター」。

D33194.jpg

京急1000形 1033編成
2019.12.6/品 川

▲20日に更新前最後の営業を終了し、久里浜工場に入場した京急1000形1033編成。音階調のメロディを奏でる独特なモーター音を持つ車両が消滅した
X80583.jpg

京急1000形 VVVFインバーター装置
2020.11.8/**

▲シーメンスの銘板が光る1000形のVVVFインバーター装置。主回路に関連する機器が集約された巨大な筐体はトラクションコンテナと呼ばれる

7月20日、京急1000形1033編成が更新工事前の運行を終了した。同編成は2100形より採用されたドイツ・シーメンス製のGTO-VVVFインバーターを搭載した最後の編成であった。このVVVFインバーターを搭載した車両は、起動時において音階調の楽しげな音を奏でることから「歌う電車」「ドレミファインバーター」などと通称されていたが、1033編成の更新により京急の「歌う電車」は消滅することとなった。

「ドレミファインバーター」の最後の営業運転となったのは20日の2113A快特京急久里浜行で、回送で久里浜検車区に入庫、そのまま入場となったようである。また、京急ではシーメンス製GTO-VVVFインバーターの終了にあたり、「さよならドレミファインバータ♪」と題したイベントを実施。記念乗車券が発売されたほか、18日には特別貸切イベント列車「ありがとうドレミファインバータ♪」が品川→京急久里浜で運転された。

◆ ◆ ◆

そもそも1000形から聞こえる「ドレミファ」とは何の音かというと、台車に搭載されたモーターの音である。1980年代後半から主流となっているVVVFインバーター制御の電車のモーターは、その制御により独特な磁励音を発する。本来、電車のモーター音なんてものは物好き以外にとってはただの騒音にしかならないが、ドイツの電機メーカーであるシーメンスはこの音が不快にならないようあえて音階調に鳴るようにチューニング。すなわち、あの「ドレミファ」はドイツ人の遊び心が作り出した音だったのである。

京急がシーメンス製VVVFインバーターを採用したのは1998年に登場した2100形から。2100形ではイニシャルコストやメンテナンスの低減、性能の向上を図って外国製品が積極的に導入され、その中で制御装置たるVVVFインバーターも外国製のものが採用された。続く2002年登場の1000形も引き続きシーメンスを採用。2004年度の車両で仕様変更されるまで、2100形と1000形合わせて8両編成15本・4両編成4本が「歌う電車」として製造され、走った。

一般的に国内を走る電車は国産の製品を中心に採用しており、特に電車の心臓部となる制御装置の採用は、鉄道の黎明期は別としても、VVVFインバーター世代の車両ではきわめて珍しい。京急2100形と1000形はその数少ない採用例であった。だからこそ「歌う電車」は京急の個性になり得たわけである。

◆ ◆ ◆

さて、京急の外国製品の積極採用という方針は成功を収めたか・・・というとビミョーなところだ。2006年度導入の1000形から方針が転換され、国産の製品を中心とした「ふつうの車両」に戻った。2100形や1000形に搭載されたシーメンス製VVVFインバーターについても、メンテナンスに手を焼いたのか車体更新などに合わせて国産のものに換装されている。2100形以前に導入された600形や1500形(1700番台)のVVVFインバーターがそのまま残置されていることを考えると、シーメンスはよほど扱いづらかったということだろうか。

こうして「歌う電車」は徐々に数を減らしていき、ついぞ最後となった1033編成も歌い終えることとなったわけだが、「ドレミファ」の音がここまで愛されて人々の印象に残ったことからすれば、必ずしも失敗ではなかったはずである。シーメンスの中の人たちもきっと喜んでいることだろう。

走行音

京急1000形デハ1040 八広→京成曳舟

京急1000形デハ1040 大門→三田

こちらもどうぞ:【走行音】京急新1000形シーメンスGTO-VVVF車 青砥→泉岳寺【ドレミファ】

関連記事

京急電鉄 シーメンス製VVVFインバーターの終焉

一時代の終焉。11月11日、京急1000形1057編成が全般検査ならびに機器更新などのため久里浜工場に入場した。同編成は現在国産メーカーへの換装が進んでいるドイツ・シーメンス製のVVVF...

京急電鉄 シーメンス製VVVFインバーターの終焉
京急線・都営浅草線・京成線・北総線「相互直通運転30周年記念」ヘッドマーク

祝・相互直通運転30周年。都営浅草線を介して直通運転を行う東京都交通局と京成電鉄、京急電鉄、北総鉄道では、2021年3月31日に相互直通運転開始から30周年を迎えることを記念してヘッドマーク電車...

京急線・都営浅草線・京成線・北総線「相互直通運転30周年記念」ヘッドマーク
京急1000形1890番台 登場

5月6日、話題の新車、京急1000形1890番台が営業運転を開始した。遅ればせながら実車の様子を見に行ってきたので、レポートしよう。さて、1000形1890番台については最初にプレスリリースが...

京急1000形1890番台 登場
京急新1000形1065編成 東京都所属になる??

京急新1000形1065編成が都営車になる??? 9月が始まって早10日、季節はまもなく夏から秋に移り変わろうとしている。今年の夏ほどイレギュラーな夏はなかった。例年通りのうだるような暑さとは...

京急新1000形1065編成 東京都所属になる??
京急新1000形SiC-VVVFインバーター車 直通運用へ

マイナーチェンジ仕様の京急新1000形、都営浅草線や京成線への直通運転を開始。5月16日、73H運行に新1000形1225編成が充当した。2016年度より導入されているマイナーチェンジ仕様の...

京急新1000形SiC-VVVFインバーター車 直通運用へ

最新記事

2025.08.16

Osaka Metro御堂筋線 シン・シャンデリアコレクション 2 - 淀屋橋駅

Osaka Metro御堂筋線の新たなシャンデリアコレクション。その2。大阪都心を南北に縦断するOsaka Metro御堂筋線では、特に最初期に開通した梅田〜心斎橋の各駅において大阪を走る初めて...

Osaka Metro御堂筋線 シン・シャンデリアコレクション 2 - 淀屋橋駅

2025.08.11

北総9100形 「印旛日本医大駅開業25周年記念」ヘッドマーク

祝・印旛日本医大駅開業25周年。北総鉄道では、7月下旬より「印旛日本医大駅開業25周年記念」ヘッドマークの掲出を行っている。これは表題の通り、2000年7月22日に当時の印旛日本医大駅が開業して...

北総9100形 「印旛日本医大駅開業25周年記念」ヘッドマーク

2025.08.06

京成N800形 赤と青の京成カラーに塗装変更

4月より京成の路線となった新京成線改め松戸線では、車両について新京成カラーから京成カラーへの塗装変更が進められている。5月には8800形が、6月には80000形がそれぞれ京成カラー化されたところ...

京成N800形 赤と青の京成カラーに塗装変更

2025.08.01

京成成田スカイアクセス線 祝・開業15周年と将来展望 その2

成田スカイアクセス線、祝・開業15周年。7月17日、京成成田スカイアクセス線は開業から15周年を迎えた。「押上〜成田空港間有料特急」、「次期スカイライナー車両」、「成田スカイアクセス線完全複線化...

  • 京成
  • タグはありません
京成成田スカイアクセス線 祝・開業15周年と将来展望 その2

2025.07.27

フランス国鉄 TGVに乗る 2 - 早朝のパリ・モンパルナス駅

2024年秋にフランスを訪れた際に、フランス国鉄の高速鉄道TGVに乗る機会があったので、雑感を記してみようと思う。その2は早朝のパリ・モンパルナス駅の様子をば。7時のTGVに乗るべく訪れた早朝...

フランス国鉄 TGVに乗る 2 - 早朝のパリ・モンパルナス駅