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2021.06.04

5月6日、話題の新車、京急1000形1890番台が営業運転を開始した。遅ればせながら実車の様子を見に行ってきたので、レポートしよう。

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京急1000形 1892編成
2021.5.28/神奈川新町

▲5月6日の653Aウィング号品川行より営業運転を開始した1000形1890番台。17日から日中時間帯のエアポート急行にも充当するようになった
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京急1000形1890番台 車内
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▲L/C座席が並ぶ1890番台の車内。写真はロングシートモードを使用しているところ
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京急1000形1890番台 L/C座席
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▲ロングシートモードのL/C座席。従来のロングシートに比べると快適性は抜群だが、6人がけになってしまうのはちょっと・・・
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京急1000形1890番台 展望席
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▲2100形以来の復活になった先頭車両の展望座席。一見するとここもL/C座席のように見えるが、乗務員室側に向いた固定座席になっている
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京急1000形1890番台 展望席からの眺め
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▲1890番台の展望座席に座ってみる。運転台の位置が高いことや貫通構造で複雑な乗務員室のレイアウトのせいで眺望性は思ったほどよくない印象
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京急1000形1890番台 行先表示「エアポート急行逗子・葉山」(側面)
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▲従来の車両より大型化した車両側面のLED行先表示器。英語や中国語、韓国語だけでなく、次の停車駅や方面も切り替えて表示。情報量が格段に増えている
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京急1000形1890番台 2号車と3号車の連結部(海側)
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▲1890番台のトイレな部分。窓のない部分の連続はかなりの存在感
床下機器を一新した1000形1890番台

さて、1000形1890番台については最初にプレスリリースが出た時に車体についてあれこれ言及したので、本稿では床下の機器類を中心に見ていこう。1890番台という付番から1800番台4両編成をベースにしているのではないかという予想は完全に裏切られ、全く新しい機器構成となった。

1000形1890番台の構成は浦賀方よりMuc2-Tuv2-Tpsv2-Msc2という4両編成。1800番台が全車電動車だったのに対し、1890番台は両端の先頭車が電動車となる2M2Tの編成となった。パンタグラフは3号車にシングルアーム式のものを2基搭載する。

制御装置には引き続き東洋電機製のVVVFインバーターが採用されているが、一部の半導体素子に炭化ケイ素を使用したハイブリッドSiC-VVVFとなった。1C4M方式のVVVFインバーターが編成中に2基搭載され、1基でそれぞれの先頭車の主電動機を制御する。

面白いのはこのVVVFインバーターを中間のサハ(付随車)に搭載している点で、このような付随車は国内の鉄道車両ではかなり珍しい事例となっている。特に、3号車はパンタグラフを載っけて制御装置もあっていかにも電動車という出で立ちなのに、サハというのだからわけがわからない。

デハに制御装置が搭載できなかったのは、車両重量の問題があるという。L/C座席などの採用でただでさえ重量級となっている1890番台の先頭車に制御装置を載せた場合、直通用車両としての重量制限1)に抵触してしまう可能性があるとのこと。実際に乗入れる予定があるかどうかは別にして、1890番台は都営浅草線をはじめとした各社局に直通可能な車両として製造されている。直通可能という条件を満たすためには、この重量制限をクリアする必要があった。

主電動機についても新設計となる全閉構造の三相かご形誘導電動機を採用。高効率化や軽量化が図られているだけでなく、高速走行時の静粛性にも寄与している。

このほか、ブレーキのシステムも刷新された。編成内のユニット単位でブレーキの制御を行う従来の車両に対し、1890番台では編成全体でブレーキを制御する編成ネットワーク制御を採用した。これが影響しているのかは分からないが、ブレーキを緩めた時の緩解音が大きく変わっている。都営5500形や京成3100形のような甲高い音になった。1000形のブレーキ緩解音と言えば乾いたような爆音が特徴だったので、音からも新車の息吹が感じられる。

というわけで、車体も床下の機器類も全く新しいものになった1000形1890番台。その仕様変更の程度はまさしくフルモデルチェンジ級である。他社局線に直通する上で番号の問題があるにせよ、1000形ではなくて新しい形式を与えてあげてもよかったように思う。

1000形1890番台の運用

6月1日現在、1890番台は以下の運用で走っている。

  • 久里浜検車区を出庫→回送→653Aウィング号品川行→702C特急三崎口行の増結車→神奈川新町で分割の後、新町検車区にいったん入庫。1024Dエアポート急行逗子・葉山行として出庫〜1424DXエアポート急行金沢文庫行まで25D運行(品川方に1000形4両を連結)→金沢検車区に入庫。→久里浜検車区へ回送、入庫。

運用は今のところ平日のみの設定で、土休日は動いていない。1890番台2本のうちのどちらかがモーニング・ウィング3号に必ず充当しなくてはならない制約から、運用に入るのは各日1編成のみ。かなり贅沢な使い方をしている。

5月6日からの運用開始当初は様子見ということからか、営業列車は653A→702Cのみとなり、新町検車区に入庫した後は回送で久里浜検車区に戻っていた。17日から日中時間帯の25D運行にも充当するようになった。25D運行は4+4の8両編成での運用だが、1890番台は浦賀方に連結される。

なお、1424DXはもともと逗子・葉山行だったが、同日より金沢文庫行に変更。1890番台を充当させるための運用変更を実施した2)

L/C座席とトイレ

L/C座席は653A〜702Cではクロスシートモードを、25D運行充当時にはロングシートモードを使用する。なお、653A→702Cの折返し場面で座席の自動転換は行われず、702Cは進行方向と逆向きの座席で走る(ただし、座席は乗客が手動で転換することができる)。

2号車と3号車に設置されたトイレはいつでも使える。汚物処理施設は金沢検車区にあるとのことなので、1日の運用の中で金沢検車区に入庫する必要が生じているものと思われる。

今後の予定

京急が5月12日に発表した2021年度の鉄道事業設備投資計画3)の中で、今年度中に1000形1890番台を3編成12両新造することが明らかになった。また、1890番台の電装品を納入している東洋電機のレポート4)によれば、1890番台の導入により1500形が置換えられるとしている。

営業運転開始までの動き

▽1891編成

  • 3月3日:総合車両製作所を出場、久里浜検車区まで試運転(KC99運行、終電後)
  • 3月29日:金沢文庫〜久里浜工場信号所で試運転(KC99運行)
  • 3月30日:京急川崎〜金沢文庫で高速試運転(KC99運行)
  • 3月31日:1809編成と京急川崎〜金沢文庫で併結試運転(KC99運行)
  • 4月5日:金沢文庫〜三崎口で試運転(KC99運行)
  • 4月14日:金沢検車区から新町検車区に回送(回19運行)
  • 4月15日:京急蒲田駅2番線で報道公開(回99運行)
  • 4月16日:新町検車区から金沢検車区に回送(回51運行)
  • 5月5日:1892編成と金沢検車区から久里浜検車区に回送(KC5運行)
  • 5月7日:653Aより営業運転開始

▽1892編成

  • 3月24日:総合車両製作所を出場、久里浜検車区まで試運転(KC99運行)
  • 4月8日:金沢文庫〜久里浜工場信号所で試運転(KC99運行)
  • 4月9日:京急川崎〜金沢文庫で高速試運転(KC99運行)
  • 4月14日:金沢文庫〜三崎口で試運転(KC99運行)
  • 4月16日:金沢検車区から新町検車区に回送(回19運行)
  • 4月17日:品川駅3番線で車両展示会、新町検車区から金沢検車区に回送(91C、回91、回51運行)
  • 4月21日:金沢文庫〜久里浜工場信号所で関係者向け試乗会(99C運行)
  • 4月23日:金沢検車区から新町検車区に回送(回19運行)
  • 4月24日:品川〜京急久里浜で試乗会、久里浜検車区から金沢検車区に回送(91C、99C、回11運行)
  • 4月28日:金沢検車区から新町検車区に回送(回19運行)
  • 4月29日:品川〜京急久里浜で試乗会、久里浜検車区から金沢検車区に回送(91C、99C、回11運行)
  • 5月5日:1891編成と金沢検車区から久里浜検車区に回送(KC5運行)
  • 5月6日:653Aより営業運転開始

【おことわり】これまで当Webサイトでは現行の京急1000形を「新1000形」と表記してきましたが、本日より「1000形」に改めます。なお、過去の記事については書き換えずにそのままとします。

  • 1)都営浅草線直通各社局による1号線直通車両規格において、車両の自重は35t以下とする規定がある。先代の1000形にはこの35tを超えているがゆえに直通不可の車両が存在した。
  • 2)京急の公式Webサイトに掲載されている車両運用表が5月17日付けで変更されている。
  • 3)2021年度 鉄道事業設備投資計画[PDF] - 京急電鉄の2021年5月12日付プレスリリース
  • 4)東洋電機技報 第143号、38ページ

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