KSWeb

鉄道やバスなど、公共交通に関するディープな話題をお届けしています。

Article

記事

2010.11.10

前回に続き、ウィーンの公共交通について見てみよう。今回は地下鉄を取り上げる。

P11222.jpg

ウィーン地下鉄 Type U
2010.9.16/Schönbrunn

▲ウィーン地下鉄のType U、何となく日比谷線である
P11223.jpg

ウィーン地下鉄 Type U 車内
2010.9.16/**

▲Type Uの車内、座席配置はクロスシート

ウィーンの地下鉄はドイツ語圏のためメトロでもなくサブウェイでもなくU-Bahn(ウー・バーン)と呼ばれる。2010年現在U1〜U6の5路線(U5は欠番、現在計画中)が開業しており、路面電車、バス、そしてS-Bahn(エス・バーン、都市近郊列車の意)と合わせてウィーンの都市交通の基幹の1つとなっている。路線番号のU1〜U6は車両の行先表示にも付記されており、系統番号的にも扱われている。これはS-Bahnも同じ(S-Bahnの系統番号はSxxで、xxの部分に数字が入る。)で、日本の感覚からすると系統番号はバスか路面電車に使われているものだと思ってしまうので、系統番号が地下鉄や都市近郊線にも使用されているのは新鮮であった。

ウィーンの地下鉄の成立ちは非常に複雑で、通常であれば都市における地下鉄は新規に建設という場合が多いと思われるが、ウィーンの場合は歴史的には市内の鉄道としてStadtbahn(シュタット・バーン、都市鉄道の意)が先行して開業しており、後にこれを転用して地下鉄とした区間が多いようだ。その名残なのか、中心部を除くと地上を走る区間が多いのが特徴。特にU6、使用されているType Tと呼ばれる車両は明らかに路面電車然としている。路面電車用の車両が地下鉄として走っているのはなぜなのだろうか。

1995年に開業したU6は、路面電車を転用した区間と前述のStadtbahnを転用した区間、新規に開業した区間から成っているという複雑な歴史を持つ。元が路面電車だった区間があるということで、それ自体が同線を走る車両の規格に大きく影響していたというわけである。現在は比較的新しい3連接のType Tを4本繋げた編成は走っているが、それ以前はそれこそ前回に紹介したType E、まさしく路面電車な車両を使用していた。また、U6のStadtbahnを転用した区間は、Stadtbahn時代の駅舎がそのまま使われており、ウィーンが生んだ建築家オットー・ワーグナーによるそれは、ウィーンのひとつの見所にもなっている。

U6のほかのU1〜U4は大きく分けて2種類の車両が使用されており、旧来から使用されているType Uと新型のType Vと呼ばれる車両が走っている。いずれも6両で、これらは共通運用と思われる。以下にType Vの走行音を掲載する。

ウィーン地下鉄Type V 2843 Großfeldsiedlung→Aderklaaer Straße

Type Vは車体、走り装置共々Siemens製で、VVVFの変調パターンが最初の音階がないのを除くと京急新1000形にそっくりである。なお、Aderklaaer Straße駅到着時にドアの開く音がしないが、ウィーンの地下鉄では乗降客が自分で扉を開けるシステムとなっているため(閉戸のみ運転士が行なう)。すなわち、乗降客がいなかったのである。

◆ ◆ ◆

各路線とも日中は5分間隔というフリークエントサービスで、待たずに乗ることができる。駅に掲示してある時刻表も、御堂筋線の朝ラッシュ時間帯のように、「この間5分間隔」というような表記となっている。発車標には列車の発車時刻は表示されておらず、系統番号と行先、そして列車到着までの時間を表示しているのが特徴である。確かに、列車が頻繁にやってくる線区では列車の発車時刻よりも、あと何分で列車が到着するという情報のほうが理に適っていると感心してしまった。このスタイルの発車標は路面電車でも同様で、路面電車の主要電停にもあと何分でトラムがやってくるかを表示する発車標が設置されている。

P11202.jpg

ウィーン地下鉄 発車標
2010.9.16/**

▲地下鉄の発車標。系統と行先、列車が来るまでの時間(分)を表示
P11239.jpg

ウィーン市電 発車標
2010.9.16/**

▲路面電車の発車標。5番があと2分で、33番があと8分で到着することが分かる

運賃は日本ではあまり馴染みのないゾーン制が採用されており、これは路面電車(バーデン線含む)、バス、地下鉄、S-Bahn、ÖBBによる中距離列車などで共通である。地下鉄や路面電車の走る市内中心部は、ゾーン制運賃の中心KeyZone(100ゾーン)として1つのゾーンになっているので分かりやすい。100ゾーン内では時間単位で運賃が異なり、1時間有効のチケットから1年間有効のチケットまで様々な種類がある。私は今回、24時間チケット(5.7ユーロ)を使ってウィーン市内の散策を楽しんだ。

P11817.jpg

ウィーン市内100ゾーン共通乗車券(24時間有効)

▲ゾーン100の24時間チケット

◆ ◆ ◆

このほか、ウィーン地下鉄に関して動画をMovieに掲載したので、そちらも参照してほしい。

なお、ウィーン地下鉄の成り立ちについては、RP誌845号に掲載の柴山氏の記事に詳しい。本記事を書く上で参考にさせていただいた。

関連記事

中央ヨーロッパ交通見聞録 6 - チェコ地方都市の路線バス

České Budějovice(チェスケー・ブジェヨヴィツェ)からチェコのある田舎町まで、今度はバスで移動する。バスに乗るまでの少しの時間に、バスターミナルにやってくるバスを観察してみた...

中央ヨーロッパ交通見聞録 6 - チェコ地方都市の路線バス
中央ヨーロッパ交通見聞録 5 - 中距離普通列車に乗る

次なる目的地に移動するため、まずはチェコ南部の都市チェスケー・ブジェヨヴィツェ(České Budějovice)に向かう。ウィーンとチェスケー・ブジェヨヴィツェを直通する列車はないので...

中央ヨーロッパ交通見聞録 5 - 中距離普通列車に乗る
中央ヨーロッパ交通見聞録 3 - ウィーンの路面電車・バス

ウィーンでは観光に路面電車、地下鉄、バスをガッツリと使ったので、それぞれ気がついたことを書いてみよう。オーストリアの首都であるウィーンも、ブダペストと同様に市中を路面電車が縦横無尽に走りまわる...

中央ヨーロッパ交通見聞録 3 - ウィーンの路面電車・バス
中央ヨーロッパ交通見聞録 2 - オーストリア連邦鉄道 特急「Railjet」

ブダペストを後にした私は、国際特急列車でオーストリアの首都ウィーンに向かったのであった。ヨーロッパ主要都市間の移動は鉄道が便利だ。「TGV」や「ICE」をはじめとした高速鉄道が多く整備されている...

中央ヨーロッパ交通見聞録 2 - オーストリア連邦鉄道 特急「Railjet」
中央ヨーロッパ交通見聞録 1 - ブダペスト市電

当Webサイト始まって以来、初の海外篇。今月の中旬に所用と旅行を兼ねて中央ヨーロッパを訪れたので、現地で体験した中央ヨーロッパの交通事情を簡単にご紹介しよう。まず最初はハンガリーの首都ブダペスト...

中央ヨーロッパ交通見聞録 1 - ブダペスト市電

最新記事

北総線 西白井駅で『ウマ娘 プリティーダービー』特別装飾を実施

「ウマ娘」たちが北総線西白井駅を駆ける。北総鉄道では、10月中旬より西白井駅において『ウマ娘 プリティーダービー(以下、ウマ娘)』の特別装飾を実施している。『ウマ娘』とは、株式会社Cygames...

北総線 西白井駅で『ウマ娘 プリティーダービー』特別装飾を実施
「都営フェスタ2024 in浅草線」開催

5年ぶりの祭典。11月30日、東京都交通局馬込車両検修場で車両基地公開イベント「都営フェスタ2024 in浅草線」が開催された。三田線の志村車両検修場と交互で概ね2年に1度に開催されるイベント...

「都営フェスタ2024 in浅草線」開催
京成電鉄 モーニングライナー・イブニングライナーの特急料金を改定

京成線、モーニングライナーとイブニングライナーを実質値上げ。11月23日、京成電鉄では京成本線で運行している座席指定制の特急列車モーニングライナーとイブニングライナーの特急料金の改定を実施した...

京成電鉄 モーニングライナー・イブニングライナーの特急料金を改定
四直珍列車研究 136 - 平日 720T

唯一、かつ初めての羽田空港行。京成線や北総線、都営浅草線では、23日にダイヤ修正が実施される。ダイヤ修正前日の記事として、今回も消えてしまう珍列車を取り上げてみよう。平日720Tレ特急羽田空港行...

四直珍列車研究 136 - 平日 720T
京成線 2024年11月23日ダイヤ修正

京成電鉄では、11月23日にダイヤ修正を行う。今回のダイヤ修正について、プレスリリースや15日発売の京成時刻表Vol.33などで明らかになっている情報を基に、その内容を見てみよう。本稿では...

京成線 2024年11月23日ダイヤ修正