2010.11.10
前回に続き、ウィーンの公共交通について見てみよう。今回は地下鉄を取り上げる。
ウィーンの地下鉄はドイツ語圏のためメトロでもなくサブウェイでもなくU-Bahn(ウー・バーン)と呼ばれる。2010年現在U1〜U6の5路線(U5は欠番、現在計画中)が開業しており、路面電車、バス、そしてS-Bahn(エス・バーン、都市近郊列車の意)と合わせてウィーンの都市交通の基幹の1つとなっている。路線番号のU1〜U6は車両の行先表示にも付記されており、系統番号的にも扱われている。これはS-Bahnも同じ(S-Bahnの系統番号はSxxで、xxの部分に数字が入る。)で、日本の感覚からすると系統番号はバスか路面電車に使われているものだと思ってしまうので、系統番号が地下鉄や都市近郊線にも使用されているのは新鮮であった。
ウィーンの地下鉄の成立ちは非常に複雑で、通常であれば都市における地下鉄は新規に建設という場合が多いと思われるが、ウィーンの場合は歴史的には市内の鉄道としてStadtbahn(シュタット・バーン、都市鉄道の意)が先行して開業しており、後にこれを転用して地下鉄とした区間が多いようだ。その名残なのか、中心部を除くと地上を走る区間が多いのが特徴。特にU6、使用されているType Tと呼ばれる車両は明らかに路面電車然としている。路面電車用の車両が地下鉄として走っているのはなぜなのだろうか。
1995年に開業したU6は、路面電車を転用した区間と前述のStadtbahnを転用した区間、新規に開業した区間から成っているという複雑な歴史を持つ。元が路面電車だった区間があるということで、それ自体が同線を走る車両の規格に大きく影響していたというわけである。現在は比較的新しい3連接のType Tを4本繋げた編成は走っているが、それ以前はそれこそ前回に紹介したType E、まさしく路面電車な車両を使用していた。また、U6のStadtbahnを転用した区間は、Stadtbahn時代の駅舎がそのまま使われており、ウィーンが生んだ建築家オットー・ワーグナーによるそれは、ウィーンのひとつの見所にもなっている。
U6のほかのU1〜U4は大きく分けて2種類の車両が使用されており、旧来から使用されているType Uと新型のType Vと呼ばれる車両が走っている。いずれも6両で、これらは共通運用と思われる。以下にType Vの走行音を掲載する。
ウィーン地下鉄Type V 2843 Großfeldsiedlung→Aderklaaer Straße
Type Vは車体、走り装置共々Siemens製で、VVVFの変調パターンが最初の音階がないのを除くと京急新1000形にそっくりである。なお、Aderklaaer Straße駅到着時にドアの開く音がしないが、ウィーンの地下鉄では乗降客が自分で扉を開けるシステムとなっているため(閉戸のみ運転士が行なう)。すなわち、乗降客がいなかったのである。
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各路線とも日中は5分間隔というフリークエントサービスで、待たずに乗ることができる。駅に掲示してある時刻表も、御堂筋線の朝ラッシュ時間帯のように、「この間5分間隔」というような表記となっている。発車標には列車の発車時刻は表示されておらず、系統番号と行先、そして列車到着までの時間を表示しているのが特徴である。確かに、列車が頻繁にやってくる線区では列車の発車時刻よりも、あと何分で列車が到着するという情報のほうが理に適っていると感心してしまった。このスタイルの発車標は路面電車でも同様で、路面電車の主要電停にもあと何分でトラムがやってくるかを表示する発車標が設置されている。
運賃は日本ではあまり馴染みのないゾーン制が採用されており、これは路面電車(バーデン線含む)、バス、地下鉄、S-Bahn、ÖBBによる中距離列車などで共通である。地下鉄や路面電車の走る市内中心部は、ゾーン制運賃の中心KeyZone(100ゾーン)として1つのゾーンになっているので分かりやすい。100ゾーン内では時間単位で運賃が異なり、1時間有効のチケットから1年間有効のチケットまで様々な種類がある。私は今回、24時間チケット(5.7ユーロ)を使ってウィーン市内の散策を楽しんだ。
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このほか、ウィーン地下鉄に関して動画をMovieに掲載したので、そちらも参照してほしい。
なお、ウィーン地下鉄の成り立ちについては、RP誌845号に掲載の柴山氏の記事に詳しい。本記事を書く上で参考にさせていただいた。
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