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2022.03.26

3月24日、国土交通省運輸安全委員会は2020年6月12日に発生した京成本線青砥駅構内における踏切脱線事故についての調査報告書を公開した1)。この報告書を読んで、どうして事故は起きてしまったのかを見てみよう。

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北総7800形 7818編成
2017.4.23/松飛台

▲脱線事故の当該となった北総7800形7818編成。京成からのリース車両である。事故後、北総車としての復帰は断念され、京成に返却の上で6両編成化されている
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京成本線 青砥駅から下り方を見る
2022.3.26/**

▲事故現場となった青砥駅の下り方。京成高砂駅から上り外線(写真向かって右側の線路)を走ってきた列車は、青砥駅進入中に脱線した

事故のあらまし:2020年6月12日10時15分ごろ、京成本線青砥駅構内で脱線事故が発生した。事故の当該となったのは京成高砂始発普通羽田空港行1022Nで、編成は北総7800形7818編成2)であった。

事故は7818編成が青砥駅に進入する際に発生した。上り外線から1番線に向けて約30km/hで走行していたところ、後ろから2両目にあたる7812号車の印旛日本医大方台車の全2軸が脱線。非常ブレーキが作動し、所定の停止位置の約44m手前で停止した。非常ブレーキは異変を感じた車掌が取り扱った車掌弁によるものであった。列車に乗車していた乗客約100名と乗務員2名の中に負傷者はいなかった。脱線した台車については、前軸(進行方向側の車軸)山側の側ばりに大きな亀裂が生じていたことがその場で確認されている。

脱線の原因

運輸安全委員会が調査したところによれば、当該列車の運転状況や脱線箇所の軌道の状態には特に問題がなかったことから、同委員会は脱線の原因を台車に生じた亀裂に起因した事象によるものと結論づけた。この亀裂によって台車前軸の輪重は極端にアンバランスになり、特に輪重が減少した山側の車輪がカーブ通過時の横圧に負けて脱線に至ってしまったという。

当該の台車が脱線したのは事故で生じた痕跡などから青砥駅手前にあるカーブの終端付近とされるが、カーブを走行している時点で既に山側の車輪はレールに乗り上がっていた。このカーブには脱線防止のためのガードレールが設置されている。このガードレールによりカーブ走行中の脱線は免れたが、ガードレールが途切れたところで脱線した模様である。

台車に生じた亀裂について

前述のように、事故の原因は台車に生じた亀裂によるものとされた。逆に言えば亀裂が発生しなければ事故は起きなかったとも言えるが、どうして亀裂は発生してしまったのだろうか。

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京成3700形 FS547形台車(山側)
2022.3.26/**

▲脱線事故の原因を作ってしまったFS547形台車。京成3700形や北総7300形、9100形などの電動車が履いている台車である。レール方向にのびる側ばりと呼ばれる部材に亀裂が発生し、脱線に至った

今回台車に生じた亀裂については、側ばり下面を起点として発生し、金属疲労により上方に向かって進展したものとされる。亀裂は側ばりの側面上部までに達しており、いわばぱっくりと割れた状態になっていた。亀裂の起点部分は、側ばりの内部に設置されているリブと呼ばれる補強材を溶接した箇所であった。

亀裂が生じたということは、その箇所においてその部材が持つ強度以上の応力が発生したということにほかならない。運輸安全委員会によれば、亀裂の起点となったリブの溶接箇所は側ばりの中でも特に応力が集中する部分であるとのこと。なおかつ、今回の当該箇所については、溶接止端部の溶接ビードの形状によりより大きな応力が発生していたようである。こうして、台車を実使用する中で局所的に限度を超える応力が発生し、その部分で亀裂が生じることになった。

定期検査で台車の亀裂を発見できなかったのか

2002年3月に国土交通省鉄道局長が通達した「鉄道に関する技術上の基準を定める省令等の解釈基準」によれば、40mm程度の亀裂が塑性変形に至るまで拡大するには120〜150万km程度の走行が必要であるとしている。今回脱線した7818編成については2016年12月に実施された全般検査からの走行距離が約49万kmだったため、前述の溶接箇所付近から発生した亀裂は、同検査の際には既に側ばり下面の表面に達していた可能性が高いと判定された。仮に全般検査の時に亀裂が発見され、何らかの処置が施されていれば脱線事故は防げた可能性があった。

当該車両の全般検査を実施した京成3)によれば、全般検査の際に台車枠については目視に加えて磁粉探傷検査を行っているという。しかし、亀裂は発見されなかった。これについて運輸安全委員会は、亀裂はこの時点で開口していなかった可能性があることなどを指摘している。要するに、この時点の亀裂の状況と検査体制を鑑みるに、亀裂を発見するのは困難だったようだ。なお、全般検査は国に届出が必要な法定検査のため、京成が実施した検査内容自体に瑕疵はない。

再発防止策

以上を踏まえて、運輸安全委員会は再発防止策を提示している。以下の通りである。

  • 台車側ばりの探傷検査においては、設計情報などをもとに応力が集中しやすい箇所を詳細に指定した上で検査を実施すること。また、内部亀裂の早期発見のため、超音波検査を併用することも考えられる。
  • 側ばりはその構造上、下面により大きな応力が発生する。したがって、目視検査においては特に側ばり下面を重点的に検査することが必要。
  • 台車を設計する際、側ばり内部に補強材を溶接する構造では、溶接箇所の溶接止端部において応力集中を緩和させる形状にするなどの工夫が必要。

鉄道用の台車とて工業製品であるので、品質にある程度のばらつきが生じるのは仕方のないこと。したがって、亀裂をあってはならないものとするのではなく、万が一亀裂が発生していたとしても早期発見できる仕組みがあることが肝要である。

事故当該車両の処遇について

脱線事故の当該となってしまった7818編成だが、既報のとおり北総車としての復帰は断念され、京成に返却されている。この際、脱線車両を含む2両が廃車になり、6両編成化。3700形3748編成として12月上旬に復帰した(詳細はこちらおよびこちら)。また、7818編成の代替として京成より3768編成が新たにリースされ、7838編成として走っている(こちら)。

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