2023.11.02
京成電鉄、新京成電鉄を吸収合併へ。
10月31日、京成電鉄は同社の完全子会社である新京成電鉄を吸収合併すると発表した1)。同日開催された取締役会において決議されたもので、効力発生日は2025年4月1日としている。新京成はこの会社合併により解散となる予定で、約80年の歴史に幕を閉じることとなる。
京成は新京成を吸収合併することについて、さらなる経営の効率化・意思決定の迅速化を図ることで経営資源を最大限活用し「千葉県北西部における事業基盤の強化及び地域活性化」や「経営資源の相互活用による競争力強化及び事業規模の拡大」、「スケールメリットを活かした効率的な協働体制の実現」といったシナジー効果をより早期かつ確実に発揮することを挙げている。同社はこうした効果を狙って2022年9月にも新京成を完全子会社化していたところであり、今回の吸収合併はそれをさらに1歩深く推し進めた格好となる。なお、京成としては鉄道事業の営業キロについて26.5kmの新京成線が加わることで178.8kmとなり、南海電鉄(154.8km)と西武鉄道(176.6km)を抜いて東京メトロ(195.1km)に次ぐ第5位の大手私鉄になる見込み。
趣味的な興味としては、やはり新京成線が、車両が、塗装が、運賃が、全てのもろもろが京成に合併されることでどうなってしまうかということであろう。以下、新京成が合併によりどのように変化しうるのか、現状を確認しながら考えてみよう。
路線名
新京成は自社の鉄道路線を新京成線として営業している。京成への合併でまず変化しうるのはここの部分であろう。過去には千葉急行電鉄が京成へ事業を譲渡する際、千葉急行線は千原線として再出発したこともあった。X(旧Twitter)では京成松戸線が一時トレンド入りするなど、新しい路線名の予想合戦が繰り広げられている様子。
一方、路線名は変更せず京成電鉄新京成線とするのも選択肢のひとつである。沿線に深く馴染んだ新京成の名称がそのまま使えれば、新京成と言った際に今までと変わらず松戸〜京成津田沼の路線を指すこととなり、大きな混乱なく京成の路線に移行できる。ここらへんは、後述する新京成のブランドとの兼ね合いもあるだろうから、慎重にかつ丁寧に決してもらいたいところ。
運賃
現在、運賃は新京成で独立している。京成と比べると特に中長距離の乗車に対して有利な運賃体系となっており、松戸から京成津田沼まで乗り通しても270円と、比較的安価である。仮に京成の運賃と統合した場合、この270円が440円になってしまうという問題が生じる。なお、運賃について現在のものを引き継ぐ方向で調整しているとの報道もあり、現状維持となる可能性が高いだろうか。
車両
新京成は開業からしばらく京成に車両を融通してもらっていた時期があったものの、1971年の800形から自社設計に完全移行。以降、京成とは異なる独自の道を歩んできた。1986年にはVVVFインバーター制御方式の8800形を導入。親会社よりも一歩先を行っていた時代もあった。現在の最新型となる80000形においても、京成グループ標準車両としながら新京成オリジナルの仕様が多く盛り込まれたものとなっている。
車両運用は新京成で独立しており、6両編成26本がくぬぎ山をベースにして走っている。一部の編成が京成線への乗入れに対応しているものの、その逆は今のところ不可。したがって、合併したからといってすぐに80000形が京成本線を走るだとか、3000形が新京成線に入るといったことが起こるとは考えにくい。結局、多くの車両が互いの線区に対応していない以上は運用を分けざるを得ず、特に新京成独自の車両である8800形や8900形がある程度の数走っているうちは、現在の運用体制が続きそうな感じ。
新京成の車両は検査を自社のくぬぎ山車両基地で行っており、この点についても新京成は新京成で完結している。同じグループ会社でも北総鉄道やディズニーリゾートラインの車両が宗吾車両基地で検査を実施しているのとは大きく異なるところである。新京成の車両も宗吾車両基地での検査に集約できれば効率的だが、宗吾車両基地にもキャパシティがあるので、合併ですぐにでもくぬぎ山の分が移管できるかというと難しいところ。ここらへんは中長期的な課題になるだろうか。
なお、京成の通勤型車両は全て3000番台という特徴がある。それでは、新京成が京成に合併した際に新京成の車両も3000番台に改番したり編入したりする必要があるかというと、必ずしもそうではない。京成の車両が3000番台なのは都営浅草線や京急線などと相互直通運転を行う上で定められた車両規格によるものであり、直通しない車両であればこの規格に合わせる必要がないからである。都営浅草線に直通するなら別にしても、直通しないのならわざわざ手間とお金をかけて改番することもないだろう2)。
新京成ブランド
新京成には約80年間かけて築いてきたブランドがある。特に、近年ではコーポレートカラーにジェントルピンクを採用し、電車の塗装や案内サインなどさまざまなところに展開。昨年には子会社の船橋新京成バスと松戸新京成バスの共通カラーとしても適用し、認知度の向上やブランド力の強化を行ってきた。
他方、京成にも京成のブランドがある。合併する以上、新京成のエリアも京成の色に染まっていくことになるだろう。しかし、新京成と言えば、松戸や鎌ヶ谷、船橋、習志野といった地域が連想されるように、地域に深く根ざしたアイデンティティは何よりも強い財産である。京成には、こうした新京成が育ててきたブランドを一瞬で吹き飛ばすことがないような舵取りが求められる。
◆ ◆ ◆
以上、予想(のようなもの)をだらだらと書いてみたが、総じて急激な変化はあまり起きないのではという印象。しかし、合併する以上、中長期的には京成化していくことは確実であろう。新京成が京成になっても、新京成が残してくれた「まいにち、ちょっと、新しい。」のフレーズを思い出しながら、日々の変化を楽しむのがよさそうだ。
- 1)完全子会社(新京成電鉄株式会社)の吸収合併(簡易合併・略式合併)に関するお知らせ [PDF] - 京成電鉄。2023年10月31日公表。
- 2)仮に新京成の車両が都営浅草線系統の相互直通運転に参加するとなった場合も、必ずしも改番の必要は生じない。車両規格において、現在の3000番台に加えて8000番台(80000番台)を京成の割り当て番号として追加すればよいのである。これについては京急の割り当ては当初1000番台のみだったが、後に600番台が加わったという前例がある。
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