KSWeb

鉄道やバスなど、公共交通に関するディープな話題をお届けしています。

etc...

エトセトラ

2024.02.10

​タイの首都バンコクにおける新たな中央駅、クルンテープ・アピワット中央駅を訪ねてみた。

X86175.jpg

タイ国鉄 クルンテープ・アピワット中央駅
2023.10.21/**

▲フアランポーン駅に代わるバンコクの新たな中央駅として建設されたタイ国鉄クルンテープ・アピワット中央駅。12面24線の規模を持つ巨大ターミナルである。手前の線路はフアランポーンへ向かう地上線

バンコクの交通事情において、近年最も大きなできごとは中央駅の移転であろう。クルンテープ・アピワット中央駅と名付けられたバンコクの新たな中央駅は、旧来の中央駅たるフアランポーン駅より北に約7km、国鉄の南本線と北本線が分岐するバンスー・ジャンクション付近に位置している。2021年8月にまずレッドラインのバンスー中央駅として開業した後、2023年1月にフアランポーン駅を発着していた長距離列車の大部分を新駅発着に変更。合わせて、クルンテープ・アピワット中央駅となった。

同駅については7年前にも建設中の様子を紹介しているが、改めて見ても巨大な駅である。東南アジアにおける鉄道のハブとなるべくつくられた新中央駅は、地下部分を含めて4層構造となっており、地上の1階がコンコース、2階と3階が列車の発着するホーム、地下1階が駐車場およびMRTバンスー駅への連絡通路である。2階と3階のホームはそれぞれ6面12線を擁していて、計12面24線という陣容。ただし、今のところ列車が発着するのは2階ホームのみで、3階部分は高速鉄道やARL1)など将来乗入れる予定のある新線のために空けてある。

そんな新しい中央駅だが、開業するまでにさまざまな紆余曲折があった。フアランポーン駅までの地上区間をどうするの問題や、高床式でつくられたホームへの対応遅れや客車トイレ問題、さらには新型コロナウイルスの世界的流行という不運も重なって、開業は遅れに遅れることとなった。レッドラインのみが先行して開業したのもここらへんの事情が重なったためで、タイ政府と国鉄の準備不足は利用者の厳しい批判を招いた。

結局、当初は中央駅移転とともに廃止を予定していたフアランポーン駅までの地上区間も当面残されることとなり、一部の列車はフアランポーン駅発着のまま留まることとなった。部外者としてはフアランポーン駅が現役で残るのはありがたいことだが、なんとも中途半端な状況に陥っている。巨大なクルンテープ・アピワット中央駅の脇にたたずむ旧線とバンスー駅という構図は、中央駅移転にかかわる諸問題の縮図である。

X86193.jpg

タイ国鉄 クルンテープ・アピワット中央駅
2023.10.21/**

▲グレー一色の空間が広がる駅構内。これだけ広いにもかかわらず案内類が少ないため、迷うとエラい目に逢う
X86197.jpg

タイ国鉄 クルンテープ・アピワット中央駅
2023.10.21/**

▲レッドラインの乗り場の周辺。乗車券を購入するための窓口と券売機が並んでいる
X86199.jpg

タイ国鉄 クルンテープ・アピワット中央駅
2023.10.21/**

▲自動改札機が並ぶレッドラインの改札口。政府の補助金による運賃上限20バーツの施策をPRするキャラクターのポップが目を引く

さて、駅に入ってみよう。駅の中はどういう空間が広がっているか、期待が高まるところだが、何があるわけでもなく、構内はただただ無機質でだだっ広い空間が広がっているだけである。都市を代表する中央駅と言うと、多くの列車が発着し、人々が行き交う華やかな場所というイメージがあるが、旅情はいったいどこに・・・。旅の始まりを想起させる雰囲気で溢れていたフアランポーン駅とは実に対照的である。長距離列車の起終点にもかかわらず売店などが少ないといった点も残念で、観光立国を標榜するのならばぜひとも改善してほしいところ。

駅は大きく分けて長距離列車の乗り場とレッドラインの乗り場に分かれているが、保安上の理由から長距離列車ではホームへの立ち入りは基本的に制限されていて、列車の発車時間に近づいた時に乗車券を所持する人だけをホームに案内するという方式が採られている。こうした点からしても、新中央駅はただ列車を乗り降りするためだけの装置といった感じ。もちろんこれでは(乗車する列車以外の)列車の写真を撮るべくもなく、趣味的にはお手上げ状態。駅構内の写真を撮るのですら怒られそうで怖い。タイ国鉄では一方で線路に立ち入り放題のメークロン線などがあるわけで、いい加減なんだか厳しいんだかよく分からん。

X86202.jpg

タイ国鉄 クルンテープ・アピワット中央駅
2023.10.21/**

▲2階ホームの様子。この上にもホームがあるためまるで地下駅のような雰囲気。換気の悪さからディーゼルカーの排煙も問題になっているようだ

とは言え、クルンテープ・アピワット中央駅は始動したばかり、まだ未完成の状態である。今後、高速鉄道やARLが新たに発着するようになる中で、また、駅としての経年を重ねていく中で、魅力溢れる駅へと変わっていくかもしれない。というか、変わっていってほしい。それはバンコクという都市とも重なるところである。まだまだ発展続くバンコクにあって、中央駅も都市とともに成長していくのである。

  • 1)ARL=Airport Rail Link。現在はバンコク都心のパヤータイからスワンナプーム国際空港を結ぶ路線だが、クルンテープ・アピワット中央駅を経由してドンムアン空港まで延伸する計画がある。

関連記事

タイ国鉄 フアランポーン駅の現在

クルンテープ・アピワット中央駅に続いて、かつての中央駅、フワランポーン駅も訪ねてみた。2023年1月にバンコクの中央駅の地位をクルンテープ・アピワット中央駅に譲ったフアランポーン駅。中央駅の移転...

タイ国鉄 フアランポーン駅の現在
タイ国鉄 レッドラインに乗る

タイの首都バンコクで2021年11月に開業したレッドラインに乗ってみた。タイの首都バンコクでは、ここのところ鉄道路線網が急速に拡大している。ここ5年だけでもBTSスクンヴィット線やMRTブルー...

タイ国鉄 レッドラインに乗る
国鉄型車両を訪ねて 25 - タイ国鉄キハ183系

国鉄型車両を訪ねて、初めての海外編はタイを走るキハ183系をば。2023年春のダイヤ改正で定期運用を終了したJR北海道のキハ183系。その一部がタイ国鉄へ譲渡され、熱帯の気候の中を走っていること...

国鉄型車両を訪ねて 25 - タイ国鉄キハ183系
タイ国鉄 泰緬鉄道の旅 3 - ナムトック支線を行く

泰緬鉄道を訪ねてみようってことでバンコクからの1dayトリップ。バンコクのトンブリー駅から客車に揺られて3時間弱、泰緬鉄道観光の要所カンチャナブリーに着いた。ここからさらに4時間ほど列車に乗り...

タイ国鉄 泰緬鉄道の旅 3 - ナムトック支線を行く
タイ国鉄 泰緬鉄道の旅 2 - ナムトック行鈍行257レ

さて、泰緬鉄道を訪ねてみようってことでバンコクからの1dayトリップ。バンコク=トンブリー駅からナムトック行の鈍行列車257レに乗る。列車は機関車+客車6両という構成。最後尾の1両が業務用を...

タイ国鉄 泰緬鉄道の旅 2 - ナムトック行鈍行257レ

おすすめの記事

2024.07.20

四直珍列車研究 134 - 平日 1681K

京成車の特急泉岳寺行が登場。平日1681Kレは、京成車で運転される特急泉岳寺行である。2023年11月ダイヤ改正で登場した列車となっている。京成車の泉岳寺行は都営浅草線西馬込始発のものは数多く...

四直珍列車研究 134 - 平日 1681K

2024.07.15

京急1000形 「京急夏詣号」運転(2024年)

空とあなたと夏詣。京急電鉄では、6月末より「京急夏詣キャンペーン2024」の実施に合わせて、「京急夏詣号」の運転を行っている。「夏詣」キャンペーンは同社が2019年度より毎年実施しているもので...

京急1000形 「京急夏詣号」運転(2024年)

2024.07.10

都営浅草線 自動放送どうするの問題を考える

都営浅草線の自動放送どうするの問題を考える。列車内における案内として重要なアナウンス。アナウンスでは列車の種別行先や次駅の案内が行われるが、昨今では自動放送が主流となっており、車掌が自らの肉声で...

  • 東京都交通局
  • タグはありません
都営浅草線 自動放送どうするの問題を考える

2024.07.04

船橋新京成バス2741号車 「ふなっしー号」

「ふなっしー」なバスが走る。船橋新京成バス2741号車が特別仕様「ふなっしー号」として走ってる。「ふなっしー」といえば千葉県船橋市を中心に暴れている同市で人気の非公認キャラクターだが、2023年...

船橋新京成バス2741号車 「ふなっしー号」

2024.06.30

北総車の京急線内特急運転が復活

約19年ぶりに復活した北総車の京急線内特急運転を見る。京急線に大きな変化をもたらした2022年11月ダイヤ改正。京急自ら「23年ぶりの大改正」としたこのダイヤ改正では、特に日中時間帯の運行...

北総車の京急線内特急運転が復活