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エトセトラ

2023.12.14

​タイの首都バンコクで2021年11月に開業したレッドラインに乗ってみた。

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タイ国鉄 レッドライン
2023.10.21/Chatuchak

▲バンコク都内の高架線を走るタイ国鉄レッドラインの列車。長距離を走る列車線との複々線となっているが、電化されているのはレッドラインが走る外側の線路のみである

タイの首都バンコクでは、ここのところ鉄道路線網が急速に拡大している。ここ5年だけでもBTSスクンヴィット線やMRTブルーラインの延伸、モノレール方式を採用したイエローラインとピンクラインの開業、そしてタイ国鉄レッドラインの開業が続いている。もともと都市の規模に対して鉄道の発展が遅れていたからとも言えるが、それはともかく10月にバンコクを訪れた際、レッドラインに乗ってみた。

タイ国鉄レッドライン

タイ国鉄レッドラインは2021年11月に開業したバンコクの新しい都市鉄道である。より正確には、SRTET(State Railway of Thailand Electrified Train)というタイ国鉄傘下の事業者が国鉄の保有する施設を使用する形で運行している形1)となるが、バンコクを起点に延びる国鉄の線路に「電車」が走るようになったという意味で、タイの鉄道の新たな幕開けを感じさせる路線である。

路線はバンコクの新しい中央駅として建設されたクルンテープ・アピワット中央駅を起点として、北本線のランシットへ向かうダークレッドラインと南本線のタリンチャンへ向かうライトレッドラインの2線から構成される。路線の建設に際して費用の一部が円借款でまかなわれ、日本企業が参画しているのも特徴のひとつ。線路は旧来からある長距離列車線に並行して建設されていて、特にダークレッドラインは列車線との高架複々線を形成している。ドイツで言うところのSバーンのような存在と言えば、レッドラインがどういった性格の路線かを想像しやすいだろうか。

路線はさらに北はアユタヤ、南はフアランポーンを経てマハーチャイからメークロン、西はナコーンパトム、東はフアマークまでの延伸計画を有していて(構想段階を含む)、現在運行している区間は全体の中のほんの一部にすぎない。観光客にとっては今のところドンムアン空港へのアクセス以外にほとんど縁のない路線だが、延伸したあかつきにはかなり使える路線になりそう。というか、早く延伸してほしい。

レッドラインの車両

車両は日本の日立製作所製。車体は3ドア20メートル級で、白を基調に路線名のとおり赤のラインが入っているのが印象的な車両である。4両編成と6両編成が在籍しているが、これらはごちゃまぜで走っていて、どのように使い分けているのかはよくわからない。駅のホームが10両編成まで対応しているので、将来的に併結して10両編成での運転ができるように4両編成と6両編成を導入したのだと思う。

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タイ国鉄 レッドライン
2023.10.21/Chatuchak

▲車両は日本の日立製作所製。4両編成もいる。6両編成とどのように使い分けているのかはよくわからない
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タイ国鉄 レッドラインの車内
2023.10.22/**

▲車内の様子。座席がプラスチック製である以外はほとんど日本を走る電車である

タイを走る日本製の電車としてはMRTパープルラインを走る総合車両製作所製の車両あるが、パープルラインの車両がMRTの規格に合わせて日本離れしたつくりになっているのに対し、レッドラインの車両はプラスチック製の座席や車両間の通路に海外らしさはあるものの、随所に日本っぽさを感じられる車両である。バンコクにいるはずなのに日本の鉄道に乗っているような、なんとも不思議な感覚に陥る。

レッドラインに乗る

乗ってみて驚いたのはそのスピード。タイ国鉄の良好な線形を活かして最高速度145km/hでの運転を行っており、なかなかアグレッシブな走りを見せてくれる。並行する道路を走る自動車をぐんぐんと追い抜いていくのは乗っていて気持ちがよい。通勤型の車両ながら揺れは少なく、乗り心地も良好。現状では駅間距離が短いなどで145km/h運転を行うのはごく一部の区間に限られているが、将来的に郊外側への延伸を果たした際にはこのスピードが存分に威力を発揮するはずである。

残念だったのは列車が終始ガラガラだったことだ。乗車したのは日曜のお昼ごろだったが、都心側のクルンテープ・アピワット中央駅を出発した時点でさえ、座席が埋まるのは2〜3割といった程度であった。原因は最高で48バーツという高額な運賃にあるらしく、現在は政府の補助金を投入して上限が20バーツとなる出血大サービスな特別運賃を実施して利用促進に務めているが、それでもこのザマである。とは言え、新規開業した路線が開業当初ガラガラなのはバンコクあるあるなので、時間が解決してくれるだろうか。

駅でレッドラインの列車を撮影する際の注意点

最後に、レッドラインの列車を駅で撮影する際の注意点を記しておこう。列車に轢かれなければマイペンライだった従来の国鉄の地上区間に対して、高架を走るレッドラインは撮影に対して一定のルールが設けられている。

  • タイ国鉄はレッドラインの駅における撮影についてガイドラインを提示している。内容的には、撮影の際はホームの点状ブロックから線路側に出ない、自撮り棒の使用禁止など当たり前なことの羅列だが、まずはこのガイドラインに従うことが大前提となる。ガイドラインは同国鉄のフェイスブックやX(旧Twitter)の公式アカウントに掲載されている。
  • 駅のホームには警備員が常駐している。何かあった場合には、彼らの指示に従う必要がある。
  • レッドラインには改札の入場から出場まで90分の時間制限が設けられている。90分を越えた場合には、ペナルティとして48バーツを支払う必要が生じるので注意(48バーツ=レッドラインの運賃の最高額。出場の際に窓口で支払う)。

こちらもどうぞ:【走行音】タイ国鉄レッドライン Rangsit→Krung Thep Aphiwat Central【日立製作所】

  • 1)かつてはスワンナプーム国際空港へのアクセス路線であるARL(Airport Rail Link)が同様の運行形態をとっていた(現在は列車の運行業務を民間企業に譲渡)。

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